― 相手との関係も、自分の心も、健やかに保つために ―
気づけば、仕事をすべて引き受けてしまっている。
タスクは増える一方で、自分の作業時間や休息の時間がどんどん削られていく。
頭では「このままではまずい」とわかっていても、なぜか断れずに対応してしまう。
結果として、仕事に追われ、疲れが取れず、気持ちも常にモヤモヤしている――。
休職する前の私は、このような状態が続いており、「自他境界」があいまいになっていたと感じます。休職中に学んだ「自他境界」について、学んだこと意識していることをここで共有したいと思います。
エンジニアは、自律的な判断やタスク管理が求められる一方で、チームメンバーとの協働も欠かせません。
そのため、「自分はどこまで関与するべきか」「どこまでが他者の責任か」といった線引きを意識しておくことが、健全な働き方を維持する上で重要になると感じています。
自他境界とは?あいまいな境界には2つのパターンがある
「ここまでは自分の考えや領域であり、ここからは相手の領域である」という境界線のようなものです。この境界がはっきりしていれば、自分の感情や責任を明確に自覚し、他者と健全な距離感を保つことができます。
しかし、この境界があいまいになると、自分と他者の区別がつきにくくなり、さまざまな問題が生じやすくなってしまいます。
あいまいな自他境界には、大きく分けて次の2つのパターンがあります。
①自分の領域を他者にまで広げてしまうパターン
このパターンでは、他社の都合やルールを一方的に合わせようとする。相手をコントロールしようとする考えです。
相手との考え方や、価値観の違いにより不要な疲労や不満の蓄積につながります。
②他者の領域を自分の中にまで取り込んでしまうパターン
もう一方のパターンでは、本来は他者に委ねられるべき責任や感情を、自分のことのように受け止めてしまいます。
特に職場では、このような思い込みがストレスの原因になりやすく、業務外のことで消耗してしまうケースも少なくありません。
多くの場合、②の「他者の領域を取り込む」パターンのほうが、無自覚のまま陥りやすい傾向があります。
私が学んだことは、自分と他者の責任を区別する視点を持つこと、境界線を彦ことで過度な気遣いや不要な自己犠牲を避けることでした。
エンジニア目線で語る「自他境界」があいまいなときに起こりがちなこと
課題の原因を他者に求めすぎてしまう(パターン①)
プログラムのバグや仕様の不明点について、「自分ではわからないから」と、そのまま相手に任せてしまうことはないでしょうか。
上司やクライアントといった立場の強い相手からの依頼は特に相手が受け入れがちのため、それによって稼働が増え、関係性に負担がかかってしまうこともあります。
自分でやったほうが早いと感じて、タスクを抱え込む(パターン①)
コードレビュー、環境設定、ドキュメントの整備など、本来はチームで分担するべき作業を、「説明するのが面倒」「任せるのが不安」という理由で自分で引き受けてしまいます。
結果として、他の人が成長する機会を奪い、自分の工数も圧迫されてしまいます。
タスクが限界に近づいていても、頼まれると断れない(パターン②)
すでに十分な負荷がかかっている状態でも、「ちょっとだけ」「お願い」と言われると、断ることに強い抵抗を感じてしまうことがあります。この場合、本来であればチームやプロジェクトマネージャーに相談して調整すべきところを、自分だけで解決しようとし、燃え尽きてしまうリスクが高まります。
自分の責任だと思い込み、稼働を上げて対応してしまう(パターン②)
本来はチームで取り組むべき課題であっても、「自分がもっと頑張れば何とかなる」と考え、無理な対応を続けてしまうことがあります。責任感が強い、完璧主義の傾向がある人がなりやすいです。
自他境界を保つためのヒント
自他境界を意識するというと、「線を引く」「距離を置く」といった、どこか冷たいイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、実際にはその逆で、自分の輪郭を守ることは、相手との関係を良好に保つための大切な土台となります。
私は、相手の期待にすべて応えようと無理をして、結果的に自分が疲れ果ててしまい、相手に対しても不満やストレスを感じさせてしまっていたと思います。
自分の「軸」を意識する
自他境界を考えるうえで、まず大切にしたいのが「自分の軸を持つこと」です。
「自分の軸」とは、自分の内側にある価値観や限界をしっかりと理解しておくことに近い感覚です。
たとえば、「このお願いを断ったら、相手はどう思うだろう」と不安になることは、誰にでもあると思います。
けれど、そのたびに相手の期待や気持ちに合わせすぎてしまうと、自分の軸が見えなくなり、モヤモヤした感覚が残ってしまいます。
自分の軸を意識し、「これは自分で解決できることか」「今の自分は何を優先すべきか」「抱え込みすぎていないか」と立ち止まることで、自分の輪郭を取り戻すことができます。
結果として、他人に対しても冷静かつ丁寧に向き合える余裕が生まれてくるのです。
「NO」や「保留」を伝える勇気を持つ
断ることで、境界線をきちんと示すことで、かえって信頼関係がクリアになり、無理のないやり取りができるようになります。
とはいえ、私は「NO」と伝えるのがとても苦手です。
「せっかく頼ってくれたのに」「ここで断ったら相手が困るかもしれない」と考えてしまい、つい引き受けてしまうことがよくあります。
その場は丸く収まっても、あとで自分のスケジュールが崩れたり、疲れがたまって余裕がなくなったりして、結局は誰のためにもなっていないなと感じることもありました。
だからこそ今は、「一度持ち帰る」「後で返答する」という“保留”の選択肢を意識するようにしています。
罪悪感をゼロにするのは難しくても、「それでも伝えてみる」勇気を持つことが、少しずつ自分を守る力につながっていきます。
自分の気持ちを考える
普通のことと思うかもしれませんが、私は仕事を優先しがちになると自分の気持ちを無視するようになっていました。
自他境界があいまいになると、無意識に他人の期待や感情を自分のものとして引き受けてしまい、自分の本当の気持ちが見えづらくなっていきます。
「今はどんな気持ちだった?」「あのとき、本当はどうしたかった?」と客観的に問いかけるだけで、自分の内側の言葉を引き出すように心がけています。
私は自分が睡眠障害やうつ状態の時、自身の状態に気づいていませんでした。
今は「気づいていなかった」ことに気づいているため、そのような傾向があることを理解し、
気持ちを書き出してみたり、好きな音楽を聴きながら気分を落ち着けたりすることで、少しずつ「自分の状態に気づける」ようになっていきました。
自他境界を意識することで得られるもの
私は最近、「自他境界」を意識しながら仕事を再開したばかりです。
まだ手探りの段階で、うまくいかないこともありますが、それでも少しずつ自分の感情や責任の線引きが見えてきている実感があります。
自分の時間やエネルギーを守りつつ、相手も尊重しながら働ける状態をつくる第一歩だと思います。
これからも、この意識を大切にしながら、お互いに心地よい関係を結び、人と関わり、
無理なく、長く仕事を続けていけたらと思っています。
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