個人チャットに潜む危険―SlackでもTeamsでも起きる“見えないリスク”―

エンジニアの悩み

SlackでもTeamsでも、「とりあえず個人チャットで聞いてみよう」は、日常的に使いますよね。
相手も自分も忙しいし、わざわざみんなの前で書くほどじゃない。ちょっとした確認、ちょっとした相談。だからこそ、つい個人チャットに頼ってしまいがちです。

でも、その「ちょっとだけ」のやりとりが、実は後から思わぬトラブル、後悔ににつながることもあります。
情報共有のはずが、共有されていない。認識合わせのつもりが、実はすれ違っていた。
最悪の場合、誰にも見えないチャットの中で、圧力やハラスメントが生まれることも――。

個人チャットは便利。だけど“見えないやりとり”には、見落とされがちな危険が潜んでいると感じています。

今回は、エンジニアの現場でよくある「個人チャットの落とし穴」と、そこからチームを守るための工夫について、実体験も交えながら考えてみようと思います。

ありがちな個人チャットトラブル6選

今までの現場で経験した、聞いた個人チャットトラブルをまとめてみました。

証拠が残らない・見えない

個人チャットの厄介さは、「誰に、何を、どこまで言ったか」が他の人に一切見えないことですよね。
表向きは穏やかに回っているチームでも、裏でどんなやりとりが行われているのか、当事者にしかわからないです。それって、トラブルの火種としては、けっこう怖いことです。

たとえば——
・AさんがBさんに注意した内容が、上司にもチームにも共有されていない
・誰がどんな説明をしたかがグループチャットに残っておらず、言った言わないの水掛け論に
・「私、ちゃんと伝えましたよ?」→「聞いてません」の問題が始まる。
・チームメンバー同士の認識が間違ったまま会話が進んでいく。

グループチャットなら、ログが全員に残るから、あとから見返して確認もできる。全員の認識相違も起こりにくくなるはず。
ですが個人チャットだと、“証拠が当事者間にしか残らない”から、外から見てフォローもしづらいんですよね。

心理的ハードルの高まり

個人チャットって、気軽にメッセージを送れるが、送る相手により送る側の心理的ハードルが高くなりがちです。
「今、忙しいかな?」「こんなことで話しかけていいのかな?」と、ちょっとした相談でも声をかけにくくなることがあります。

しかも、個人チャットは“1対1の場”なので、タイミングや空気を読みすぎてしまい、
結局そのまま言いそびれてしまうことも少なくありません。

たとえば——
・上司に相談したかったけど、忙しそうだったので言えなかった
・同僚に質問したかったけど、既読スルーが怖くて控えてしまった
・気軽に聞ける空気がないせいで、重要な情報が共有されないままになっていた

グループチャットやオープンな場でのやりとりなら、「誰かが拾ってくれる」「返せる人が返す」という緩やかな助け合いが自然に起きやすいです。
でも個人チャットは、「相手が返さなきゃ」というプレッシャーをかけてしまう構造でもあるんですよね。

ハラスメントや圧力の温床に

個人チャットは1対1の閉じた空間。だからこそ、他の人の目が届かず、ハラスメントや圧力が生まれやすい環境でもあります。

「これはちょっと言いすぎでは…?」という発言も、グループチャットであれば周囲の視線がブレーキになりますが、個人チャットではその抑止力が効きません。
無意識の圧力や、立場を利用した一方的な指示が飛んできても、それを見てくれる第三者がいないのです。

たとえば——
・上司から深夜に個人チャットでタスクが飛んでくる
・「あなたのためを思って」と個人的な指導が始まる
・断りづらい雰囲気の中で、雑談に付き合わされ続ける

こうしたやりとりが積み重なると、相談できずに抱え込む人が出てくるようになります。
誰にも気づかれないまま、ひとりの中で消耗していく──それが、個人チャットの最も怖いところでもあると思います。

以前、オンライン会議で画面共有をしていた人の個人チャットのやり取りがたまたま見えてしまったときがありました。そこには思いっきり、他チームについて率直にネガティブな意見が書かれているやりとりが目に入ってしまいました。

その時は「私もきっと悪口を言われているんだろうな」と思い落ち込んでしまいました。

増殖するグループチャット問題

個人チャットでやりとりしていたところに、「ちょっとこの人も入れておくね」と第三者を追加してグループチャットに切り替える経験ありませんか?
一見便利な対応に見えますが、これが“グループチャット増殖”の始まりだったりします。

最初は一時的な目的のつもりでも、解散されないまま放置され、
気づけば同じメンバー構成で名前違いのグループがいくつも並ぶ。。。なんてことも。

たとえば——
・「進捗確認用」「調整用」「共有用」と、少しずつ違う名目で増えていく
・似たようなメンバー構成のチャットが複数あって、どこで話したかわからなくなる
・誰がどこにいるか把握できず、情報の重複・漏れ・行き違いが起こる

この状態になると、チャットの整理・検索・管理に時間がかかり、かえって非効率になってしまいます。
「共有したつもりが、別のグループだった」「あの話、どこでしたっけ?」が頻発すると、業務も人間関係も円滑に進まなくなります。

公私混同が起きやすい

個人チャットは、プライベートと仕事の境界があいまいになりやすい空間です。
気軽に話しかけられる分、いつの間にか仕事と関係ない話が増えたり、個人的な感情が持ち込まれやすくなったりします。

もちろん、雑談や軽いやりとりがチームの潤滑油になることもあります。
でも、それを「誰と・どこで・どれくらいの温度で」やるかは、すごく繊細な問題です。

たとえば——
・業務時間中に、個人チャットで私的な話題を長々と送られてくる
・相手のテンションや生活リズムを無視して、どんどん踏み込んだ質問をされる
・「これって…ちょっと距離近すぎでは?」と感じることがあるけれど、指摘しづらい

こういう違和感って、はっきり「嫌です」と言えるほどではないけれど、じわじわとストレスになっていくんですよね。
「今そのテンションじゃないんだけど…」と思いながら、相手に合わせて返事をしてしまう。
その積み重ねが、公私の境界線を曖昧にしているのだと思います。

なぜ個人チャットに頼ってしまうのか?

なぜ私たちは、つい個人チャットに頼ってしまうのか。その背景には、こんな事情が隠れていると考察しています。

パブリック(全体チャット)で話すのはちょっと怖い

チーム全体に見える場所で発言するのって、意外とハードルが高いですよね。自分と同じ会社のグループ内なら良いですが、他社やクライアントがいる中で発言することはとてもストレスがかかります。
「こんなこと聞いていいのかな?」「変なこと言ったら恥ずかしいな」――
特に新人や若手、異動したばかりの人ほど、個人チャットの方が気がラクだったりします。

既読が欲しい/返信が早いから

個人チャットは、相手に直接届く為レスポンスが早い傾向があります。
チャンネルに書くとスルーされそうな内容も、個人チャットならちゃんと拾ってもらえる“気がする”。
その「反応の速さ」に慣れてしまい、つい個人チャットを常用してしまいます。

グループチャットが増えすぎて、どこに書けばいいかわからない

ルールがあっても、「この内容、どこに書くのが正解なんだっけ?」と迷うことが多いです。
で、結果的に「もう直接個人チャットで聞いてしまおう」となる。
さらには「この件についての会話ってどこでしていましたっけ?」と聞いてしまうこともあります。

選択肢が多すぎで選ぶことに時間をかけてしまい、本当に必要なことに時間をかけられなくなります。

“親しい人”にだけ聞きがちになる構造

オープンな場ではなく、気心の知れた相手に個人チャットで相談してしまいます。
それ自体は悪いことではないですが、特定の人に情報が集中すると、チーム全体の情報バランスが崩れることにつながります。

チームで“見えるやりとり”を増やすために

個人チャットは気軽だけど、チームとしては「見えるやりとり」が増えたほうが健全。
個チャ依存を減らすには、個人の工夫とチーム文化の両方が必要です。
以下に、私が実践している3つのヒントを紹介します。

「個人チャット→パブリック」への転送をためらわない

個人チャットでの話が広がってきたら、チャンネルやスレッドに展開することをためらわないようにしましょう。

「さっき〇〇さんとこの件について話してて…こんな感じになりそうです」

そんな軽い前置きがあるだけで、受け取る側も流れを把握しやすくなります。
完璧なまとめ文でなくてOK。情報を“開いていく”ことが、チームにとっての価値になります。

「まずチャンネルで聞く文化」を育てる

個人チャットが増えすぎる背景には、「聞いていい場所がわからない」「誰にも拾ってもらえなさそう」という不安があることも。

まずは、質問や発言を拾ってもらえる雰囲気づくりが第一歩。
「ありがとう」のリアクションや「見てるよ」の絵文字だけでも、十分なサインになります。

新人や異動者が「ここで聞いても大丈夫なんだ」と思える空気があると、自然と個人チャット依存は減っていきます

「困ったらまずここ」な場所を明確に

#質問チャット、#相談所、#雑談部屋…何でもいい。
など、用途を緩やかに決めておくだけでも効果的。

私は、自分の個人チャットに来てもらってもいいと伝えるようにしていますが、やりとりの中で話が広がったときは、グループチャットで展開するようにしています
そのほうが、情報の流れが早くなり、共有の手間も省けます。

特に新人さんには、「言いたいことがうまく言えなくても、まずアラートを挙げよう」と声をかけています。
言葉が出ないときも、そこから一緒に整理していくことで、個人チャットの限界を越えて“チームの知”として育てていけると感じています。

さいごに

個人チャットが全部ダメなわけではありません。
けれど、やりとりが開かれていることは、情報の伝わりやすさだけでなく、チームへの信頼感にもつながります。

「ちょっと開いてみようかな」
「聞いていい場所って、ここで合ってるかな」

そんな小さな勇気の積み重ねが、チームをしなやかに強くしてくれます。
まずは今日のやりとりのうち、ひとつだけでも“パブリック”にしてみる勇気を出してみてください。

自己紹介
この記事を書いた人
くまの部屋

現場歴7年くらいの中堅女性エンジニア。
一度立ち止まって、休職。もう一度、自分のペースで復職。

ブログでは、開発現場で見えてきた「リアルな声」、女性エンジニアとしての気づき、そして、休んだ人だからこそ語れる“これからの働き方”を綴っていきたいと考えています。
休職をきっかけに同じ境遇の人に共感でき、誰かのためになれるようなブログを書いていきたいです。

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